久我真樹:英国メイドの世界(講談社)

 英国のマナーハウスなどで働く、使用人たちについて書かれた総括的な本。元々は同人誌であったものを商業本として刊行したものらしい。
分厚い…。読むのにかなり時間がかかってしまった。
 まず(メイドだけでなく)各種使用人のヴィクトリア朝以前の来歴が書かれ、豊富な史料の証言を引用しながらさまざまなカテゴリの使用人について説明している。
 私が感心したとは、その、メイドだけでなくガーデナーやフットマンにまで及ぶ視野の広さ、豊富な関連資料を駆使した解説であった。私の興味はどうしても英国の貴族や政治に向いてしまっていて、正直、それほどメイドを含む使用人の世界にはさほど興味が無かった。(マナーハウスには興味あったけど…)ディズレーリがスエズ運河を買収するとき資金を急遽借りた話、ヴィクトリア女王が政治から忌避するときはバルモラル城へ逃げた、等のエピソードなどが、今まで私の記憶に残っている面白い話だった。王族でもないのにウェストミンスター公が公爵になれた話とか。他の本によると、彼は行いが立派だったのでヴィクトリア女王から買われていたようだ。いや、話が逸れた。それで、この本を読んで、使用人の世界観というのもなるほど面白いものだなと思えた。人間関係や仕事のつらさなどはむしろ現代日本で働く人々にとって身近なものに思えてくるのも、面白さの理由の一つである。
 印象に残った使用人たちについて:
 パーラーメイド:美人が多かったので、禁断の恋に陥る主人もいたとか…。そういえばアラビアのロレンスも私生児だったなぁ。
 ナースメイド:チャーチルとエヴェレスト夫人の絆の深さは有名ですね。
 スカラリーメイド:下積み生活、大変そう。
 デイリーメイド:清楚さの象徴。イラストが美少女すぎ(笑)。この本のタイトルとあいまって「会社の休憩中に読めねえ…」と思った。
 ゲームキーパー:「game」という単語に猟の獲物という意味があるとは知りませんでした。猟場の維持は非常に大変そう。これに関する〜actが議会でも成立していたそうなので国家的に重要な問題だったのでしょうね。
ガーデナー:使用人としては勉強する機会が多かった。
ヴァレット:こういう関係は萌える。カエサルと解放奴隷みたいな。しかし、いい話ばかりでは無かった。
 
 やっぱりエマが類書として取り上げられていた。有名だしな…。
 巻末の洋書の参考資料の多さにびっくり。私もこれぐらいの学力が欲しい…。